宇宙法レジメ-総論
2005年 12月 28日
宇宙法レジメ-総論
第1 総論
1 宇宙法を特別の法として観念する根拠
(1)地球表面からの直接的排他的管理不可能性
*国家又は個人による直接的排他的上方空間管理が可能となった場合に宇宙法はその固有の存在意義を失うのか。
*月面やその他の天体について地球表面同様の直接的排他的管理が可能となった場合に宇宙法の原則の適用が解除され(宇宙法という特別の法を観念する必要がなくなり),別個の地球表面に適用されるのと同様の法が適用されるようになる(宇宙条約のパラダイムが変わる)のか。
(2)コストパフォーマンスが地表と異なる(コスト大かつリスク大にもかかわらず得ることができる利益は不明)ので,国家又は個人による排他的権利を認めるよりは,共同利用を原則とする方が,より効率的な利用が可能となる
*月面やその他の天体における鉱物資源などの採掘が可能な段階となると,国家又は個人による排他的権利を認めた方が,より効率的な投資が期待できるようになり,宇宙法の原則の適用は解除され,地球表面同様の法が適用されるようになるのか。
2 宇宙法適用のメルクマール(文献:下記第3,2,(1))
(1)空間説と機能説
「宇宙空間」という空間の特性に即して設定されるもの(空間説)か
「宇宙活動」という機能の特性に即して設定されるもの(機能説)か
(2)宇宙条約(1967年)の構成(機能説を前面に打ち出しながら空間にも配慮する折衷的内容)
3 宇宙法上の概念
(1)宇宙空間(文献:下記第3,2,(2))
A説:空域:空気抵抗により飛行する航空機の最高高度以下
宇宙空間:空気抵抗を必要としない宇宙物体の最低衛星軌道以上
B説:数量的な境界線を国際的合意により確立しようとする説
(2)宇宙物体(文献:下記第3,2,(3),(17))
ア 広義の宇宙物体の定義
1,地球を回る軌道及びその外に打ち上げられた又は打上げを試みられた物体で他の天体上に着陸させられ,配置され,又は建造された若しくは他の天体から打ち上げられた物体を含む。
2,宇宙物体はその構成部分並びにその打上げ機及び部品を含む。
3,「地球を回る軌道」とは,地球の自然力,特にその引力に従いながら恒常的な仕方で周回する物体の重心により描かれる軌跡をいう。
4,「打ち上げられた」とは,打上げが成功したか否かを問わない。
イ 広義の宇宙物体の定義の問題点(文献:下記第3,2,(17))
(ア)上記要件1では宇宙航空機が含まれない可能性がある
→上記要件1を,下記のとおり「意思」を中心として再構成する。
再構成された定義: 「天体を含む宇宙空間で活動させる意思に基づいて打上げられた若しくは打上げを試みられた又は打上げられる物体」
(イ)Space debrisが上記の広義の宇宙物体に含まれない
→定義上の宇宙物体には含まれないが,法規定上の宇宙物体として,個々の条約や法律の解釈において宇宙物体に含めることが可能になる。
4 宇宙法の法的地位
(1)万民共有物(宇宙条約第2条参照)か人類の共同遺産(月協定第11条)か(文献:下記第3,2,(1))
5 宇宙法の基本原則
(1)探査・利用の自由vs平等の調整
ア 宇宙活動自由の原則(宇宙条約第1条,文献:下記第3,2,(2))
(ア)自由の原則
・自由なアクセスの権利
・自由な探査の権利
・自由な利用の権利
(イ)自由の制限
・国家の経済的または科学的発展の程度にかかわりなく
・すべての国の利益のために
・全人類に認められる活動分野
イ 宇宙空間領有禁止の原則(第2条)
(ア)趣旨(文献:下記第3,2,(2))
国際慣習法上一般に認められてきた,「無主地」に対する先占及び実効的支配に基づく領域権能の取得を,恒久的に否認
(イ)天然資源について(文献:下記第3,2,(2))
A 宇宙空間にある天然資源
(A)宇宙無線通信業務用の周波数帯
・マラガ・トレモリノス条約(1973年)第33条第2項
「国,または国の集合が公平に使用することができるように」
・ナイロビ条約(1982年)
「発展途上国の特別な必要性および特定国の地理的事情を考慮し」
・放送衛星業務に関する世界無線主官庁会議(WARC-BS)1977年
プラン化:技術力にかかわらず国土,人口等を考慮に入れて周波数を割当て
(B)静止衛星軌道
・マラガ・トレモリノス条約(1973年)第33条第2項
「国,または国の集合が公平に使用することができるように」
・静止衛星軌道に関する世界無線主官庁会議(WARC-ORB-85,88)1985年,1988年
Allotment Plan:すべての国に最低限1個の静止衛星軌道の割当て
B 天体にある天然資源
(2)平和利用
ア 宇宙条約第4条(文献:下記第3,2,(2),(7)及び(8))
(ア)前提:軍事活動の区分
A 侵略的
B 非侵略的
(A)ウェポニゼーション:他の宇宙物体や地上の標的を物理的に破壊したり機能を損傷させたりする能力を持つ宇宙物体の配置
(B)ミリタリゼーション:兵器システムの能力向上には資するがそれ自体として攻撃能力を持たない宇宙物体の配置
(イ)宇宙条約第4条の解釈
A 天体:平和的利用義務あり
但し,軍事活動の監視システムの設置であれば許容されるのではないかとの説あり。
多国間システムによる監視システムであればより一層その許容性が高まるのではないか。
更に,国連やその補助機関の下に設立されるものであれば更に許容性が高まるのではないか。
B 宇宙空間:平和的利用義務の有無について議論あり
明示的に禁止されるのは大量破壊兵器の地球周回及び配置のみ
但し,部分的核実験禁止条約(1963年)や環境改変技術禁止条約(1977年)による制限あり。
また,いずれにしても国連憲章による一般的武力行使禁止の対象とはなる。
イ 月協定第3条
(3)国家への責任集中
ア 宇宙条約第6条(responsibility)
(ア)責任対象となる行為(下記文献第3,2,(7))
→1 領域的管轄権(領域内からの打上げ)
2 属人主義(自国民の活動)
3 準領域的管轄権(自国打上げ登録の宇宙物体内部の乗員の活動)
(イ)「国際的責任」の意味(下記文献第3,2,(18))
→1 問題が生じないようにすべき事前の法遵守確保義務・規制義務
及び
2 問題が生じたときの事後的な義務と違法行為責任
の両方を含む幅広い内容をもつ
イ 宇宙条約第7条(liability)
ウ 宇宙損害責任条約(文献:下記第3,2,(2),(19))
(ア)責任の主体
A 「打上げ国」(宇宙損害責任条約第1条c号)
1 宇宙物体の打ち上げを行う国
2 打ち上げを行わせる国
3 その領域または施設から打ち上げられる国
B 登録国が「打上げ国」となるか?(文献:下記第3,2,(19))
これを肯定する場合,衛星譲渡の譲受人や企業合併の存続会社は登録を引き継ぐことになるが,「打上げ国」となるのか?
宇宙物体登録についての2007年総会決議
勧告要旨
1 自国領域から打ち上げる外国(人)所有の衛星を登録,共同で決定せよ
2 1の場合,自国の打上げ提供業者に衛星所有者と協議して「関係当事国」を決めるよう助言させる。
3 共同打上げ時,衛星,ロケット等個別登録
4 軌道上の衛星所有者移転,登録国が「関係当事国」と協力して,情報を提供
5 未登録物体,「関係当事国」が事務総長通報
6 国際組織の責任体制,別途一括決定
C 「打上げ国」概念の定義についての2004年総会決議(文献:下記第3,2,(19))
勧告要旨
1 国内法による明確化
2 共同打上げ等 関係国での協定締結勧奨
3 軌道上の衛星所有移転時の登録や責任配分について報告するよう勧告
4 類似の国内法による調整勧告
(イ)損害(宇宙損害責任条約第1条a号)
A 有体損害に限られる(宇宙損害責任条約における「損害」の範囲は狭い)
B 打上げ国領域内への落下は国内法で処理
C 間接損害や後発損害が損害賠償の対象となるか
→宇宙活動と損害発生との間の相当因果関係がメルクマールとなると解する。
理由:1969年宇宙法律小委員会への日本提出の「近因性の存在」と呼ばれる適切な因果関係の概念導入のワーキングペーパーが多くの国の支持を得た。
(ウ)責任原則
・原則:無過失責任(宇宙損害責任条約第2条)
・例外:宇宙物体内外又は地表以外における過失責任(宇宙損害責任条約第3条)
(エ)賠償請求の主体
・被害国(宇宙損害責任条約第8条第1項)
・被害者の国籍国(宇宙損害責任条約第8条第1項)
・損害発生地国(宇宙損害責任条約第8条第2項)
・被害者永住国(宇宙損害責任条約第8条第3項)
(オ)賠償請求の手続
・外交上の経路を通じて行う
・打ち上げ国の総ての国内的な救済措置を前もって尽くす必要はない(宇宙損害責任条約第11条第1項)
cf.一般国際法上,国家が外交保護権を行使する場合には,被害者たる自国民が加害国において,国内的救済手段を尽くすことが求められる。
・外交交渉により1年以内に解決されない場合は3人の委員からなる請求委員会が設置される(宇宙損害責任条約第14条)
(カ)賠償額の算定
一般国際法上の「現状回復の原則」(宇宙損害責任条約第12条)
(キ)条約によっても一義的に解決されない問題
A 天体上の基地のような固定施設に対して発生した場合の適用の有無
B 請求委員会の決定が原則として最終的ではないこと
C 条約には打ち上げ国と請求国の関係が規定されるのみで加害者個人と被害者個人の関係は規定されていない
→国家が得た賠償金をどのように被害者個人に配分するかの国内法整備が必要
エ 米国法の存在による賠償責任問題解決(文献:下記第3,2,(19))
(ア)意義
米国商業宇宙打上げ法では,米国籍でなくとも米市民が支配的利益(controlling interest)をもつ企業は,米の打上げ許可なしに米国領域内またはいずれの国の管轄権下にもない地域(公海など)から打上げを行ってはならないと規定。
(イ)「擬制的米国市民」の義務
・米国市民が「支配的利益」をもつ外国人
1988年連邦規則で定義
1,米国市民が51%以上出資
2,それ以外は運輸長官の認定
・米国外かつ外国領域外での打上げ(=「国際公域」からの打上げ)について米国から許可必要
例:公海上,公空,南極
(ウ)シーローンチ打上げ
リベリア船籍(リベリアは宇宙関係条約未加入国)から公海上での打上げ
→「打上げ国」なし。
☆宇宙損害責任条約上の責任を問えるか?
→米国商業宇宙打上げ法による賠償問題解決
6 基本的条約
(1)宇宙条約(1967年)
ア 宇宙活動自由の原則(第1条)
イ 宇宙空間領有禁止の原則(第2条)
ウ 平和的利用の原則(第4条)
エ 宇宙飛行士への援助(第5条)
→宇宙救助返還条約(1968年)
オ 国家責任集中の原則(第6条,第7条)
→宇宙損害賠償条約(1972年)
(2)宇宙3条約
ア 宇宙救助返還協定(1968年)
イ 宇宙損害賠償条約(1972年)
ウ 宇宙物体登録条約(1975年)
(3)その他
ア 月協定(1979年)
(ア)月=太陽系のすべての天体(文献:下記第3,2,(16))
(イ)平和目的利用(月協定第3条)
(ウ)月及びその天然資源の人類共同財産性(月協定第11条)
7 宇宙の商業利用(文献:下記第3,2,(4)及び(5))
(1)「商業化」概念を用いる意義
ア 国家責任集中の原則を保ちつつ企業に国際的義務を遵守させるための鍵としての概念としての意義
→「商業化」=「民営化」ととらえる
イ 宇宙空間の法的性質を前提とする解決方法の及ばない領域を確立するための概念としての意義
→「商業化」=「利潤追求」ととらえる
(2)私企業の活動の規律
ア 条約の構成
・自国の活動についての国家の責任(宇宙条約第6条)
・打上げ国の第三者損害賠償責任(宇宙条約第7条)
・登録国による宇宙物体への管轄権及び管理権行使(宇宙条約第8条)
イ 国内法の構成
(ア)国内法において規定すべき内容
・宇宙関係条約の遵守のため国内法は下記のとおり定められるべきである。
・国は私企業の宇宙関係条約遵守能力を前提に打上げ免許を発給し,保証責任を果たす。
宇宙関係条約遵守のための具体例
・大量破壊兵器を宇宙空間に配置しない(宇宙条約第4条)
・有害な汚染を防止し,地球外物質の導入により地球環境を悪化させない(宇宙条約第9条)
・スペースデブリ発生防止等の基準を満たす(宇宙機関間スペースデブリ協議会の勧告基準)
・軌道要素情報の提供(宇宙物体登録条約第4条)
・第三者保険付保(宇宙損害賠償条約)
・国際電気通信連合憲章(1994年)等の宇宙通信関連協定等に基づく国際的義務遵守
(イ)各国国内法
・1980年アリアン宣言(欧州)
・1982年スウェーデン宇宙活動法
・1984年米国商業宇宙打上げ法
・1998年米国商業宇宙法
(3)宇宙資産担保金融(文献:下記第3,2,(20))
・ケープタウン条約
航空機,鉄道車両,宇宙物体など国境を越えて所在を変更する高額物体の担保
国際的登録機関
宇宙物体議定書について審議中
日本は未批准
8 宇宙空間の環境破壊(文献:下記第3,2,(5))
(1)宇宙空間
ア 宇宙条約第9条
イ スペースデブリ問題
ウ 大気圏内,宇宙空間及び水中における核実験禁止条約(1963年)
エ 環境改変技術敵対的使用禁止条約(1977年)
(2)月
ア 月協定第7条
イ 月協定第15条
9 宇宙活動に関する紛争処理(文献:下記第3,2,(12))
(1)紛争回避手続としての事前協議
(2)任意的紛争解決手続
(3)強制的紛争解決手続
ア 請求委員会による拘束的決定
イ 仲裁又は国際裁判
ウ 理事会による調停後の仲裁裁判
エ 仲裁
10 日本の宇宙法
(1)宇宙開発の進展(文献:下記第3,2,(2))
ア 1969年宇宙開発に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協力に関する交換公文
→この結果,アメリカの技術が使用されている限り,日本製ロケットによる商業打上げは認められなかった。
イ 1994年宇宙開発事業団によるH-IIロケット(100%国産ロケット)の打上げ成功
→商業目的でのロケット打上げができるようになる。
国家への責任集中原則適用のための国内法整備が必要となる。
ウ 1998年宇宙開発事業団法の改正
・打上げ委託者への保険加入義務
エ 2008年宇宙基本法制定
・宇宙基本法4条
産業振興
・宇宙基本法16条
1,民間事業者の能力活用:物品役務調達計画
2,設備・成果の民間移転
3,企業化の促進
4,投資の容易化のための税制・金融
・宇宙基本法35条
宇宙活動法の整備
オ 新たな国内法整備の必要性
・民間による宇宙開発事業団以外への打上げ委託は宇宙開発事業団法の対象外
・民間企業による独自の打上げ業務の可能性
(2)日本の宇宙政策における「平和的目的」の解釈(文献:下記第3,2,(8))
ア 日本政府の解釈
・1967年,宇宙条約批准のための国会審議において政府委員により平和利用が意味するのは「非軍事」とはいえない旨が説明された。
・1968年,科学技術庁長官は日本としての宇宙の平和利用は「非軍事利用」にほかならない旨を発言した。
・1969年,宇宙開発事業団法策定において同法第1条に「平和の目的に限り」という語を挿入。
・1969年,衆参両議院による宇宙開発事業団法の付帯決議として日本の宇宙開発が将来にわたり「非軍事」の範囲を逸脱しないように歯止めをかけた。
イ 自衛隊の宇宙利用
☆自衛隊の通信衛星回路利用等が軍事利用であるか否か?
→(ア)公平無差別原則による適法化
公衆電気通信役務の提供は公平無差別におこなわなければならないので,防衛庁が一般の者と同様の地位において役務提供を受けることは宇宙開発事業団法第1条に合致する。
(イ)一般化理論による適法化(日本政府統一見解)
軍事あるいは民間利用を問わず,利用が一般化している衛星及びそれと同様の機能を有する衛星については自衛隊による利用が認められるとの理論。
導入決定時には一般化していないが,衛星運用時までには一般化しそうであるという蓋然性のある場合を含めている。
ウ 憲法9条の歯止め
いずれにしても憲法9条の歯止めは存在する。
(3)宇宙商業化についての日本法(文献:下記第3,2,(4)及び(5))
ア 電波法による規制
・人工衛星局又は放送衛星局に該当する無線局を開設しようとする者による許可の取得(電波法第4条,第6条)
・人工衛星局免許が発給されると文部科学省が保管する「人工衛星登録簿」に宇宙物体登録条約が要求する諸要素を含めた情報が記載され,外務省が同情報を国連事務総長に提供する。
イ 損害賠償について
・実用衛星打上業務の主体が宇宙開発事業団のみのときは第三者損害賠償の求償については「主務大臣の認可」(宇宙開発事業団法第22条第2項)に含ませることが可能であった。
・私企業が打上げビジネスに参入し宇宙開発事業団に打上げを委託する場合が生じたので1998年に宇宙開発事業団法を改正し,保険契約締結義務を課す(同法第24条の2)
ウ 国内法の適用がなされず国の保証責任(宇宙法第6条)が果たせなくなる可能性のある場合
(ア)日本法人が日本の領域外で通信用電波を送受信する人工衛星局を開設する場合
論点:外国が許可を与えて設置した人工衛星局の登録はどこの国が行うのか?
→A説:許可を与えた外国が登録
B説:企業の国籍国が国際的責任を負い賠償責任を償還することを条件に許可を与えた外国が登録
C説:企業の国籍国の許可を別個に要請し,国籍国が登録
D説:登録国なし
(イ)軌道上の衛星売買又はトランスポンダリース
(宇宙法レジメ-各論に続く)
第1 総論
1 宇宙法を特別の法として観念する根拠
(1)地球表面からの直接的排他的管理不可能性
*国家又は個人による直接的排他的上方空間管理が可能となった場合に宇宙法はその固有の存在意義を失うのか。
*月面やその他の天体について地球表面同様の直接的排他的管理が可能となった場合に宇宙法の原則の適用が解除され(宇宙法という特別の法を観念する必要がなくなり),別個の地球表面に適用されるのと同様の法が適用されるようになる(宇宙条約のパラダイムが変わる)のか。
(2)コストパフォーマンスが地表と異なる(コスト大かつリスク大にもかかわらず得ることができる利益は不明)ので,国家又は個人による排他的権利を認めるよりは,共同利用を原則とする方が,より効率的な利用が可能となる
*月面やその他の天体における鉱物資源などの採掘が可能な段階となると,国家又は個人による排他的権利を認めた方が,より効率的な投資が期待できるようになり,宇宙法の原則の適用は解除され,地球表面同様の法が適用されるようになるのか。
2 宇宙法適用のメルクマール(文献:下記第3,2,(1))
(1)空間説と機能説
「宇宙空間」という空間の特性に即して設定されるもの(空間説)か
「宇宙活動」という機能の特性に即して設定されるもの(機能説)か
(2)宇宙条約(1967年)の構成(機能説を前面に打ち出しながら空間にも配慮する折衷的内容)
3 宇宙法上の概念
(1)宇宙空間(文献:下記第3,2,(2))
A説:空域:空気抵抗により飛行する航空機の最高高度以下
宇宙空間:空気抵抗を必要としない宇宙物体の最低衛星軌道以上
B説:数量的な境界線を国際的合意により確立しようとする説
(2)宇宙物体(文献:下記第3,2,(3),(17))
ア 広義の宇宙物体の定義
1,地球を回る軌道及びその外に打ち上げられた又は打上げを試みられた物体で他の天体上に着陸させられ,配置され,又は建造された若しくは他の天体から打ち上げられた物体を含む。
2,宇宙物体はその構成部分並びにその打上げ機及び部品を含む。
3,「地球を回る軌道」とは,地球の自然力,特にその引力に従いながら恒常的な仕方で周回する物体の重心により描かれる軌跡をいう。
4,「打ち上げられた」とは,打上げが成功したか否かを問わない。
イ 広義の宇宙物体の定義の問題点(文献:下記第3,2,(17))
(ア)上記要件1では宇宙航空機が含まれない可能性がある
→上記要件1を,下記のとおり「意思」を中心として再構成する。
再構成された定義: 「天体を含む宇宙空間で活動させる意思に基づいて打上げられた若しくは打上げを試みられた又は打上げられる物体」
(イ)Space debrisが上記の広義の宇宙物体に含まれない
→定義上の宇宙物体には含まれないが,法規定上の宇宙物体として,個々の条約や法律の解釈において宇宙物体に含めることが可能になる。
4 宇宙法の法的地位
(1)万民共有物(宇宙条約第2条参照)か人類の共同遺産(月協定第11条)か(文献:下記第3,2,(1))
5 宇宙法の基本原則
(1)探査・利用の自由vs平等の調整
ア 宇宙活動自由の原則(宇宙条約第1条,文献:下記第3,2,(2))
(ア)自由の原則
・自由なアクセスの権利
・自由な探査の権利
・自由な利用の権利
(イ)自由の制限
・国家の経済的または科学的発展の程度にかかわりなく
・すべての国の利益のために
・全人類に認められる活動分野
イ 宇宙空間領有禁止の原則(第2条)
(ア)趣旨(文献:下記第3,2,(2))
国際慣習法上一般に認められてきた,「無主地」に対する先占及び実効的支配に基づく領域権能の取得を,恒久的に否認
(イ)天然資源について(文献:下記第3,2,(2))
A 宇宙空間にある天然資源
(A)宇宙無線通信業務用の周波数帯
・マラガ・トレモリノス条約(1973年)第33条第2項
「国,または国の集合が公平に使用することができるように」
・ナイロビ条約(1982年)
「発展途上国の特別な必要性および特定国の地理的事情を考慮し」
・放送衛星業務に関する世界無線主官庁会議(WARC-BS)1977年
プラン化:技術力にかかわらず国土,人口等を考慮に入れて周波数を割当て
(B)静止衛星軌道
・マラガ・トレモリノス条約(1973年)第33条第2項
「国,または国の集合が公平に使用することができるように」
・静止衛星軌道に関する世界無線主官庁会議(WARC-ORB-85,88)1985年,1988年
Allotment Plan:すべての国に最低限1個の静止衛星軌道の割当て
B 天体にある天然資源
(2)平和利用
ア 宇宙条約第4条(文献:下記第3,2,(2),(7)及び(8))
(ア)前提:軍事活動の区分
A 侵略的
B 非侵略的
(A)ウェポニゼーション:他の宇宙物体や地上の標的を物理的に破壊したり機能を損傷させたりする能力を持つ宇宙物体の配置
(B)ミリタリゼーション:兵器システムの能力向上には資するがそれ自体として攻撃能力を持たない宇宙物体の配置
(イ)宇宙条約第4条の解釈
A 天体:平和的利用義務あり
但し,軍事活動の監視システムの設置であれば許容されるのではないかとの説あり。
多国間システムによる監視システムであればより一層その許容性が高まるのではないか。
更に,国連やその補助機関の下に設立されるものであれば更に許容性が高まるのではないか。
B 宇宙空間:平和的利用義務の有無について議論あり
明示的に禁止されるのは大量破壊兵器の地球周回及び配置のみ
但し,部分的核実験禁止条約(1963年)や環境改変技術禁止条約(1977年)による制限あり。
また,いずれにしても国連憲章による一般的武力行使禁止の対象とはなる。
イ 月協定第3条
(3)国家への責任集中
ア 宇宙条約第6条(responsibility)
(ア)責任対象となる行為(下記文献第3,2,(7))
→1 領域的管轄権(領域内からの打上げ)
2 属人主義(自国民の活動)
3 準領域的管轄権(自国打上げ登録の宇宙物体内部の乗員の活動)
(イ)「国際的責任」の意味(下記文献第3,2,(18))
→1 問題が生じないようにすべき事前の法遵守確保義務・規制義務
及び
2 問題が生じたときの事後的な義務と違法行為責任
の両方を含む幅広い内容をもつ
イ 宇宙条約第7条(liability)
ウ 宇宙損害責任条約(文献:下記第3,2,(2),(19))
(ア)責任の主体
A 「打上げ国」(宇宙損害責任条約第1条c号)
1 宇宙物体の打ち上げを行う国
2 打ち上げを行わせる国
3 その領域または施設から打ち上げられる国
B 登録国が「打上げ国」となるか?(文献:下記第3,2,(19))
これを肯定する場合,衛星譲渡の譲受人や企業合併の存続会社は登録を引き継ぐことになるが,「打上げ国」となるのか?
宇宙物体登録についての2007年総会決議
勧告要旨
1 自国領域から打ち上げる外国(人)所有の衛星を登録,共同で決定せよ
2 1の場合,自国の打上げ提供業者に衛星所有者と協議して「関係当事国」を決めるよう助言させる。
3 共同打上げ時,衛星,ロケット等個別登録
4 軌道上の衛星所有者移転,登録国が「関係当事国」と協力して,情報を提供
5 未登録物体,「関係当事国」が事務総長通報
6 国際組織の責任体制,別途一括決定
C 「打上げ国」概念の定義についての2004年総会決議(文献:下記第3,2,(19))
勧告要旨
1 国内法による明確化
2 共同打上げ等 関係国での協定締結勧奨
3 軌道上の衛星所有移転時の登録や責任配分について報告するよう勧告
4 類似の国内法による調整勧告
(イ)損害(宇宙損害責任条約第1条a号)
A 有体損害に限られる(宇宙損害責任条約における「損害」の範囲は狭い)
B 打上げ国領域内への落下は国内法で処理
C 間接損害や後発損害が損害賠償の対象となるか
→宇宙活動と損害発生との間の相当因果関係がメルクマールとなると解する。
理由:1969年宇宙法律小委員会への日本提出の「近因性の存在」と呼ばれる適切な因果関係の概念導入のワーキングペーパーが多くの国の支持を得た。
(ウ)責任原則
・原則:無過失責任(宇宙損害責任条約第2条)
・例外:宇宙物体内外又は地表以外における過失責任(宇宙損害責任条約第3条)
(エ)賠償請求の主体
・被害国(宇宙損害責任条約第8条第1項)
・被害者の国籍国(宇宙損害責任条約第8条第1項)
・損害発生地国(宇宙損害責任条約第8条第2項)
・被害者永住国(宇宙損害責任条約第8条第3項)
(オ)賠償請求の手続
・外交上の経路を通じて行う
・打ち上げ国の総ての国内的な救済措置を前もって尽くす必要はない(宇宙損害責任条約第11条第1項)
cf.一般国際法上,国家が外交保護権を行使する場合には,被害者たる自国民が加害国において,国内的救済手段を尽くすことが求められる。
・外交交渉により1年以内に解決されない場合は3人の委員からなる請求委員会が設置される(宇宙損害責任条約第14条)
(カ)賠償額の算定
一般国際法上の「現状回復の原則」(宇宙損害責任条約第12条)
(キ)条約によっても一義的に解決されない問題
A 天体上の基地のような固定施設に対して発生した場合の適用の有無
B 請求委員会の決定が原則として最終的ではないこと
C 条約には打ち上げ国と請求国の関係が規定されるのみで加害者個人と被害者個人の関係は規定されていない
→国家が得た賠償金をどのように被害者個人に配分するかの国内法整備が必要
エ 米国法の存在による賠償責任問題解決(文献:下記第3,2,(19))
(ア)意義
米国商業宇宙打上げ法では,米国籍でなくとも米市民が支配的利益(controlling interest)をもつ企業は,米の打上げ許可なしに米国領域内またはいずれの国の管轄権下にもない地域(公海など)から打上げを行ってはならないと規定。
(イ)「擬制的米国市民」の義務
・米国市民が「支配的利益」をもつ外国人
1988年連邦規則で定義
1,米国市民が51%以上出資
2,それ以外は運輸長官の認定
・米国外かつ外国領域外での打上げ(=「国際公域」からの打上げ)について米国から許可必要
例:公海上,公空,南極
(ウ)シーローンチ打上げ
リベリア船籍(リベリアは宇宙関係条約未加入国)から公海上での打上げ
→「打上げ国」なし。
☆宇宙損害責任条約上の責任を問えるか?
→米国商業宇宙打上げ法による賠償問題解決
6 基本的条約
(1)宇宙条約(1967年)
ア 宇宙活動自由の原則(第1条)
イ 宇宙空間領有禁止の原則(第2条)
ウ 平和的利用の原則(第4条)
エ 宇宙飛行士への援助(第5条)
→宇宙救助返還条約(1968年)
オ 国家責任集中の原則(第6条,第7条)
→宇宙損害賠償条約(1972年)
(2)宇宙3条約
ア 宇宙救助返還協定(1968年)
イ 宇宙損害賠償条約(1972年)
ウ 宇宙物体登録条約(1975年)
(3)その他
ア 月協定(1979年)
(ア)月=太陽系のすべての天体(文献:下記第3,2,(16))
(イ)平和目的利用(月協定第3条)
(ウ)月及びその天然資源の人類共同財産性(月協定第11条)
7 宇宙の商業利用(文献:下記第3,2,(4)及び(5))
(1)「商業化」概念を用いる意義
ア 国家責任集中の原則を保ちつつ企業に国際的義務を遵守させるための鍵としての概念としての意義
→「商業化」=「民営化」ととらえる
イ 宇宙空間の法的性質を前提とする解決方法の及ばない領域を確立するための概念としての意義
→「商業化」=「利潤追求」ととらえる
(2)私企業の活動の規律
ア 条約の構成
・自国の活動についての国家の責任(宇宙条約第6条)
・打上げ国の第三者損害賠償責任(宇宙条約第7条)
・登録国による宇宙物体への管轄権及び管理権行使(宇宙条約第8条)
イ 国内法の構成
(ア)国内法において規定すべき内容
・宇宙関係条約の遵守のため国内法は下記のとおり定められるべきである。
・国は私企業の宇宙関係条約遵守能力を前提に打上げ免許を発給し,保証責任を果たす。
宇宙関係条約遵守のための具体例
・大量破壊兵器を宇宙空間に配置しない(宇宙条約第4条)
・有害な汚染を防止し,地球外物質の導入により地球環境を悪化させない(宇宙条約第9条)
・スペースデブリ発生防止等の基準を満たす(宇宙機関間スペースデブリ協議会の勧告基準)
・軌道要素情報の提供(宇宙物体登録条約第4条)
・第三者保険付保(宇宙損害賠償条約)
・国際電気通信連合憲章(1994年)等の宇宙通信関連協定等に基づく国際的義務遵守
(イ)各国国内法
・1980年アリアン宣言(欧州)
・1982年スウェーデン宇宙活動法
・1984年米国商業宇宙打上げ法
・1998年米国商業宇宙法
(3)宇宙資産担保金融(文献:下記第3,2,(20))
・ケープタウン条約
航空機,鉄道車両,宇宙物体など国境を越えて所在を変更する高額物体の担保
国際的登録機関
宇宙物体議定書について審議中
日本は未批准
8 宇宙空間の環境破壊(文献:下記第3,2,(5))
(1)宇宙空間
ア 宇宙条約第9条
イ スペースデブリ問題
ウ 大気圏内,宇宙空間及び水中における核実験禁止条約(1963年)
エ 環境改変技術敵対的使用禁止条約(1977年)
(2)月
ア 月協定第7条
イ 月協定第15条
9 宇宙活動に関する紛争処理(文献:下記第3,2,(12))
(1)紛争回避手続としての事前協議
(2)任意的紛争解決手続
(3)強制的紛争解決手続
ア 請求委員会による拘束的決定
イ 仲裁又は国際裁判
ウ 理事会による調停後の仲裁裁判
エ 仲裁
10 日本の宇宙法
(1)宇宙開発の進展(文献:下記第3,2,(2))
ア 1969年宇宙開発に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協力に関する交換公文
→この結果,アメリカの技術が使用されている限り,日本製ロケットによる商業打上げは認められなかった。
イ 1994年宇宙開発事業団によるH-IIロケット(100%国産ロケット)の打上げ成功
→商業目的でのロケット打上げができるようになる。
国家への責任集中原則適用のための国内法整備が必要となる。
ウ 1998年宇宙開発事業団法の改正
・打上げ委託者への保険加入義務
エ 2008年宇宙基本法制定
・宇宙基本法4条
産業振興
・宇宙基本法16条
1,民間事業者の能力活用:物品役務調達計画
2,設備・成果の民間移転
3,企業化の促進
4,投資の容易化のための税制・金融
・宇宙基本法35条
宇宙活動法の整備
オ 新たな国内法整備の必要性
・民間による宇宙開発事業団以外への打上げ委託は宇宙開発事業団法の対象外
・民間企業による独自の打上げ業務の可能性
(2)日本の宇宙政策における「平和的目的」の解釈(文献:下記第3,2,(8))
ア 日本政府の解釈
・1967年,宇宙条約批准のための国会審議において政府委員により平和利用が意味するのは「非軍事」とはいえない旨が説明された。
・1968年,科学技術庁長官は日本としての宇宙の平和利用は「非軍事利用」にほかならない旨を発言した。
・1969年,宇宙開発事業団法策定において同法第1条に「平和の目的に限り」という語を挿入。
・1969年,衆参両議院による宇宙開発事業団法の付帯決議として日本の宇宙開発が将来にわたり「非軍事」の範囲を逸脱しないように歯止めをかけた。
イ 自衛隊の宇宙利用
☆自衛隊の通信衛星回路利用等が軍事利用であるか否か?
→(ア)公平無差別原則による適法化
公衆電気通信役務の提供は公平無差別におこなわなければならないので,防衛庁が一般の者と同様の地位において役務提供を受けることは宇宙開発事業団法第1条に合致する。
(イ)一般化理論による適法化(日本政府統一見解)
軍事あるいは民間利用を問わず,利用が一般化している衛星及びそれと同様の機能を有する衛星については自衛隊による利用が認められるとの理論。
導入決定時には一般化していないが,衛星運用時までには一般化しそうであるという蓋然性のある場合を含めている。
ウ 憲法9条の歯止め
いずれにしても憲法9条の歯止めは存在する。
(3)宇宙商業化についての日本法(文献:下記第3,2,(4)及び(5))
ア 電波法による規制
・人工衛星局又は放送衛星局に該当する無線局を開設しようとする者による許可の取得(電波法第4条,第6条)
・人工衛星局免許が発給されると文部科学省が保管する「人工衛星登録簿」に宇宙物体登録条約が要求する諸要素を含めた情報が記載され,外務省が同情報を国連事務総長に提供する。
イ 損害賠償について
・実用衛星打上業務の主体が宇宙開発事業団のみのときは第三者損害賠償の求償については「主務大臣の認可」(宇宙開発事業団法第22条第2項)に含ませることが可能であった。
・私企業が打上げビジネスに参入し宇宙開発事業団に打上げを委託する場合が生じたので1998年に宇宙開発事業団法を改正し,保険契約締結義務を課す(同法第24条の2)
ウ 国内法の適用がなされず国の保証責任(宇宙法第6条)が果たせなくなる可能性のある場合
(ア)日本法人が日本の領域外で通信用電波を送受信する人工衛星局を開設する場合
論点:外国が許可を与えて設置した人工衛星局の登録はどこの国が行うのか?
→A説:許可を与えた外国が登録
B説:企業の国籍国が国際的責任を負い賠償責任を償還することを条件に許可を与えた外国が登録
C説:企業の国籍国の許可を別個に要請し,国籍国が登録
D説:登録国なし
(イ)軌道上の衛星売買又はトランスポンダリース
(宇宙法レジメ-各論に続く)
by akiraorita | 2005-12-28 23:10 | 法